ピカソの名前の意味
子どもというものは、〝長い名前”を覚えてドヤりたがる生き物だ。
スリランカ首都の「スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ」。ローマ五賢帝の1人「マルクス=アウレリウス=アントニヌス」。落語の「寿限無」。子どもたちの暗記力はすさまじいので、その気になれば、すぐに覚えてしまう。
極めつけは、画家ピカソの本名だ。
「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」
(Pablo Diego Jose Francisco de Paula Juan Nepomuceno Maria de los Remedios Crispin Cipriano de la Santisima Trinidad Maria de los Remedios Alarcon y Herrera Ruiz y Picasso)
息子の友達に、これをすべて暗記している子がいるらしく、息子が深くリスペクトしている。
なんでこんなに長い名前なのか。このピカソの本名(洗礼名)は、彼の出生地であるスペイン南部アンダルシア地方のマラガの命名法に則っているそうだ。スペインには祖先の姓や名を子に受け継ぐ命名のルールがあるが、特にマラガは、親類縁者や聖人などの名前をずらずらと付けるため、長い名前になる。
この名づけのルールを理解すれば、誰でもピカソと同じような長い名前を付けることができる。
そこで、もしも自分がマラガに生まれていたらどんな名前になっていたか、子どもと一緒に、試してみることにした。
ピカソ的命名の方法
まずはマラガ式の命名のルールを理解しよう。ピカソの長い本名を分解すると、こんな感じになる。
- 「パブロ」=自分の名(ピカソは、亡き伯父の名前をもらっている)
- 「ディエゴ」=父方の祖父の名
- 「ホセ」=父の名
- 「フランシスコ・デ・パウラ」=母方の祖父の名
- 「フアン・ネボムセノ」=ゴッドファーザー(名付け親)の名
- 「マリア・デ・ロス・レメディオス」=ゴッドマザー(名付け親)の名
- 「クリスピン・クリスピニアノ」=誕生日(10月25日)の守護聖人
- 「デ・ラ・サンティシマ・トリニダード」=「三位一体」という意味
- 「ルイス」=父の姓
- 「ピカソ」=母の姓
父さんの名前、おじいちゃんたちの名前、両親の名字、それ以外にはキリスト教の聖人と名付け親の名前が入っている。
このルールに則って、実際にピカソ風の名前を付けてみよう。
1.自分の名前
2.父方のおじいちゃんの名前
3.父親の名前
4.母方のおじいちゃんの名前
このパートは簡単で、自分と父親、おじいちゃん2人の名前をつければいい。
5.ゴッドファーザーの名前
6.ゴッドマザーの名前
これはキリスト教ならではの制度だ。「名付け親」といっても実際の名前を付けた人ではなく、洗礼名を与える役目を果たしてくれた「代親」と呼ばれる人だ。該当する人がいなければ、ここは省略してしまおう。
7.誕生日の守護聖人
キリスト教では365日のそれぞれの日付に守護聖人が割り振られている。自分の誕生日の守護聖人は誰なのかは、いろいろなサイト(例えば聖パウロ女子修道会のサイト)で探してみよう。
8.「デ・ラ・サンティシマ・トリニダード」
これは決まり言葉なのでそのままつける。
9.お父さんの名字
10.お母さんの名字
これも簡単だ。なお両親の名字の間には、スペイン語で「and」を意味する「イ」を入れる。
有名人の名前をピカソネームに
例として、このマラガ式の長い名前「ピカソネーム」を、有名人で作ってみよう。祖父の代まで名前が公開されている有名人というと、政治家や歌舞伎役者あたりでできそうだ。
例えば、元首相の麻生太郎氏。
麻生太郎のピカソネームは、こんな感じになる
「太郎・太郎・太賀吉・茂・ヨハネ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・麻生・イ・吉田」
いきなり「タロータロー」のインパクトがすごいが、祖父である昭和の名宰相「吉田茂」の名がしっかりと入る。分解するとこうだ。
- 「太郎」=自分の名
- 「太郎」=父方の祖父(麻生太郎)の名。麻生氏は祖父と同姓同名である
- 「太賀吉」=父(麻生太賀吉)の名
- 「茂」=母方の祖父(吉田茂)の名
- ゴッドファーザーは不明なので省略
- ゴッドマザーも省略
- 「ヨハネ」=誕生日9月20日の守護聖人
- 「デ・ラ・サンティシマ・トリニダード」=「三位一体」
- 「麻生」=父の姓
- 「吉田」=母の姓
政治家一族と言えば、DAIGO(ウィッシュの方)もそうだ。
DAIGOのピカソネームはこうなる。
「DAIGO・用一郎・武宣・登・ジュリア・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・内藤・イ・竹下」
DAIGOも祖父の「竹下登」元首相が名前に入ってくる。DAIGOだと、途中の聖人のカタカナ名にもそれほど違和感がない。「DAIGOスターダストから芸名を変えたのかな」くらいにしか感じられない。
こんな感じで、子どもたちと一緒に、自分の名前でもピカソネームを作ってみよう。
「お母さんの方のおじいちゃんの名前は…」と思い出しながら、1つずつ名前を付けていく。
そうしてできた名前を見ると、自分の命が先祖から脈々と連なっているのだなと、思い出させてくれる。先祖と聖人がいつも見守っている、という効果が、ピカソネームにはあるのかもしれない。
ちなみに日本の法律では、名前に長さの制限が設けられていないので、子供にいくらでも長い名前をつけることができる。このピカソネームを、ごっそりとそのまま出生届に記入することも、法律上は可能だ。ただし、子どもがその後の人生で苦労することは間違いない。ちなみに、ピカソも自分の本名を覚えていなかったそうだ。
なおピカソの名前についての論考は、こちらの翠波画廊さんの解説が、決定版っぽかったので、参考にさせていただいた。