ムーミンバレーパークに親子で行くなら予習しておきたい原作エピソード

子どもとでかける

ムーミンは、キャラクターは人気だけれど、ディズニーやジブリに比べて具体的な物語は日本でそれほど知られていない。「ムーミンバレーパーク」に行くとしたら、事前に知っておいた方が良いエピソードは何か。

原作を知らないと楽しめないか?

埼玉県飯能市の「ムーミンバレーパーク」は、自然豊かな環境の中で、ムーミンの世界を体感するテーマパークだ。キャラクター型テーマパークといっても、千葉のランドのように刺激的なアトラクションがたくさんあるわけではない。ライドとショーとパレードの洪水を期待していくと、物足りなさを感じるかもしれない。(レビューの評価がイマイチなのも、そのあたりが理由でなかろうか)

(画像はムーミンバレーパークのプレスリリースより)

とはいえこのパーク、トーベ・ヤンソンのムーミンの世界観を忠実に再現しようとして、かなりこだわっている。パーク内のすみずみには原作の小ネタもちりばめられている(いわゆる「芸コマ」)。

「ムーミン屋敷」は原作を知っていると気づく小ネタでいっぱい

もちろん、ムーミンの原作を知らない人でも楽しめる。モチーフの原作エピソードを教えてくれる仕掛けがあるからだ。でも、キャラクターのテーマパークに行ったときに、小ネタをあちこちで見つけて「あ!これはあの作品に出てくるあれだ!」と喜びたいタイプの人(私のような)は、やはり事前に親子でムーミンの原典を予習していった方が楽しめる。ムーミンバレーパークは、「俺じゃなきゃ見逃しちゃうね的欲求に応えてくれるだけの、作り込みがある。

ムーミンの原作小説は全部で9作品。短編集『ムーミン谷の仲間たち』以外の8作品は中長編だ。全て名作だが、直前に全部読んでいくのはなかなか大変かもしれない。そこで、この中からできれば押さえておきたい作品を紹介したい。

また小説を読む時間がない人には、ムーミンの最新のアニメ『たのしいムーミン一家』と映画の中から、原作に対応したエピソードも紹介する。

できれば見ておきたい4作品

1. 小説『たのしいムーミン一家』

ムーミントロールたちが魔法のぼうしを拾うことから始まる、ムーミン谷の騒動を描いた小説『たのしいムーミン一家』。おなじみのメインキャラクターたちも、たくさん登場する。ムーミンバレーパークには、この小説の中のキャラクターや場面をモチーフにした施設や風景がいくつかある。

ムーミン谷といえば、この橋。ムーミンバレーパークにもちゃんとある(画像は講談社『たのしいムーミン一家』より』)

まず、ムーミンバレーパークの「飛行おにのジップラインアドベンチャー」は、この小説の重要キャラクター“飛行おに”がモチーフだ。

“飛行おに”は、クロヒョウに乗って世界中の空を飛び回り、ルビーを集める魔物だ。三百年も探し続けていた宝石「ルビーの王さま」を求めて、ムーミン谷にやってきた。ジップラインは、クロヒョウに乗った気分で空を飛ぶというコンセプトだ。

(画像は講談社『たのしいムーミン一家』より』)

子どもの遊び場「ムーミン谷のあそびのひろば」「ムーミン谷の空のトラック」も、“飛行おに”などムーミン谷の空がモチーフだ。

ムーミントロールとスノークのおじょうさんが、魔法のぼうしから生まれた雲に乗るシーンが原作にあるが、この絵が壁に描かれている。

(画像は講談社『たのしいムーミン一家』より』)

ちなみに、同じ「ムーミン谷のあそびのひろば」にある「モランのコロコロホイール」のキャラクター、モランも、この小説が初登場だ。

ニョロニョロたちが気圧計を大事にしているのはご存じだろうか。『たのしいムーミン一家』の小説には、ヘムレンがニョロニョロの気圧計に手を出したせいで、300匹のニョロニョロに詰められるという恐怖のエピソードがある。この、ニョロニョロが大切にしている気圧計、パーク内のどこかにあるので探してみてほしい。

このほか、スニフが拾った雪嵐の玉(スノードーム)「ムーミン屋敷」の中にこっそり飾られていたり、小ネタがいくつかパークにある。

2. 短編『しずかなのが好きなヘムレンさん』

短編集『ムーミン谷の仲間たち』に収録されている、ヘムレンさんが主人公の小説『しずかなのが好きなヘムレンさん』。かつて遊園地で働いていたヘムレンさんが、遊園地が閉園したことをきっかけに自ら遊園地を作る物語だ。

この短編をモチーフにしたのが、ムーミンバレーパークで子供たちに大人気のアスレチック「ヘムレンさんの遊園地」。原作を読んでから行けば、「あの遊園地か」と感慨深い。短めのお話なので読んでおきたい。

原作の挿絵に登場するヘムレンさんのボートも、遊園地とは別の場所で見つけることができる。

(画像は講談社『ムーミン谷のなかまたち』より)

3. 小説『ムーミンパパの思い出』

ムーミンパパの思い出』は、ムーミンパパの若いころの大冒険を描いた、ムーミンシリーズの前日譚的な物語。スナフキンの父親のヨクサル、スニフの父のロッドユールなど、おなじみのキャラクターの父親たちも登場する。

ムーミンバレーパークのアトラクション「海のオーケストラ号」は、この小説をモチーフにしたもの。小説で描かれたムーミンパパの大冒険を凝縮して体感できる。

子どもの遊び場「ムーミン谷のあそび」の「ひろばのボールプール」も、このムーミンパパの冒険譚がモチーフになっている。

小説に登場する小ネタも、パークの中にいくつかある。例えば、ムーミンパパの相棒の発明家フレドリクソンが手作りした「できのいい水車」。これがパーク内のどこかにある。

(画像は講談社『ムーミンパパの思い出』より)

ムーミン屋敷」に飾ってある模型は、ムーミンパパの冒険の思い出の品だ。これが何かは、是非原作で確認してほしい。

4. 小説『ムーミンパパ海へ行く』

ムーミン一家が、慣れ親しんだムーミン谷を遠く離れ、絶海の孤島に引っ越す物語。荒涼とした島の中で、灯台で暮らすことになったムーミン一家。さみしげなトーンのお話しだが、リトルミイの明るさに救われる。

ムーミンバレーパークの「灯台」は、ムーミン一家が移り住んだ島の灯台がモチーフになっている。

パーク内で灯台があるのは、中心から少し離れた場所。原作の雰囲気のとおりで、どことなく、さみしい。

灯台の周りには、ママの切った薪や、集めてきた海藻など、島での生活が小説のとおりに再現されている。

原作では、ママは島に馴染めず、つらくてムーミン谷の花壇などを灯台の中に描く。この絵が、パークの灯台の中にも描かれている。

(画像は講談社『ムーミンパパ海へ行く』より)

他にも、ムーミンパパの「水晶玉」や、ムーミントロールのうみうまのスケッチなど、小説に登場する小ネタがパーク内にある。

もっと楽しむための3作品

小説『ムーミン谷の彗星』

ムーミンシリーズの第二作で、シリーズ最高傑作とも名高い小説『ムーミン谷の彗星』。彗星が衝突してこの世が滅びると聞いたムーミントロールとスニフ、リトルミイが冒険に出かける物語で、スナフキンとの出会いをはじめ主要キャラクターも勢ぞろいだ。

ムーミントロールたちが向かったおさびし山の天文台が、「ヘムレンさんの遊園地」のそばに立っている(模型)。

天文台に向かうムーミントロール、スニフ、スナフキンのシルエットも見える


また彗星から避難するために家財道具などを運ぶのに使った手押し車などがパーク内にある。

展示施設「コケムス」にあるショップ「ムーミン谷の売店」は、『ムーミン谷の彗星』でムーミンたちが天文台からの帰りに立ち寄った売店がモチーフ。ぬいぐるみがもらえるゲームコーナー「Peli & Leikki」にも、彗星に見立てたボールを転がすゲームがある。

小説『ムーミン谷の夏祭り』

ムーミン谷の夏まつり』には、ムーミン谷が洪水に見舞われるエピーソードがある。この洪水で流れてきたのが、エンマの劇場だ。ムーミンバレーパークのショーは、この「エンマの劇場」がモチーフになっている。

エンマの劇場前で、ムーミンパパが歌舞伎の見栄を切っていた

小説『ムーミン谷の冬』

ムーミンバレーパークの入り口近くにある水浴び小屋。ムーミンパパの作った小屋で、夏の間はムーミントロールたちが泳いだり、釣りをしたりして過ごす。

小屋の中をのぞいてみると、トゥーティッキ(おしゃま)のボーダーの洋服が掛けられている。これは、『ムーミン谷の冬』のエピソードを踏まえたもの。冬眠中に目を覚ましてしまったムーミントロールが、冬のムーミン谷を体験するこの小説では、冬の間は水浴び小屋をトゥーティッキが住処にしていることが明かされる。

(画像は講談社『ムーミン谷の冬』より)

ゲームコーナー「Peli & Leikki」にあるトゥーティッキの釣りのゲームも、この小説がモチーフだ。また「ムーミン屋敷」のどこかには、この小説のとおりのキャラクターが隠れている。

あ!

アニメで予習するなら

アニメ『ムーミン谷のなかまたち』

ムーミンは過去に何度か映像化されているが、現在、配信やDVDで見ることができるのは、最新のアニメシリーズ『ムーミン谷のなかまたち』。いまのところシーズン2までが日本で放送されている。ムーミンバレーパークに関係のあるエピソードは次の通りだ。

  • シーズン1エピソード4「エンマの劇場」とエピソード5「黄金のしっぽ」。小説『ムーミン谷の夏祭り』のエンマの劇場のエピソードが原作。パークの「エンマの劇場」はこれを見ると背景が分かる。
  • シーズン1エピソード6「ニョロニョロの島」。パーク内にもあるニョロニョロの気圧計のエピソードが登場。
  • シーズン1エピソード13「真冬のご先祖さま」。小説『ムーミン谷の冬』でのトゥーティッキやご先祖様とのエピソードがもとになっている。見ておけば、水浴び小屋やムーミン屋敷の解像度が上がる
  • シーズン2エピソード6「飛行おにの帽子」~エピソード8「ルビーの王さま」。小説『ムーミン谷の夏祭り』の”飛行おに”のエピソード。ジップラインのモチーフとなった”飛行おに”をめぐる物語。

シーズン2エピソード9「お別れのとき」~エピソード12「ムーミントロールとうみうま」。この4話が、ムーミン一家が灯台島で過ごす『ムーミンパパ海へ行く』を下敷きにしたお話しとなる。

映画は2作品

パペットアニメーションによる映画もある。

劇場版『ムーミンパパの思い出』は、タイトルどおり『ムーミンパパの思い出』を原作としたアニメ映画。「海のオーケストラ号」による若きパパの冒険は、この映画で見ることができる。

劇場版『ムーミン谷の彗星』も、同名小説を原作としたパペットアニメーション映画だ。1978年~82年にポーランドで製作されたTVシリーズをカラー修正・再編集した劇場公開版となる。

原作を知れば知るほどムーミンバレーパークは楽しめる。パークのディテールを是非楽しんでほしい。


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