ひらがな五十音を1回ずつ全て使って文章を作る「パングラム」遊び。バカリズムや小林賢太郎や竹本健治を超える、現代の「いろは歌」作りに、親子で挑もう。
パングラムに魅了される人たち
「パングラム」をご存じだろうか。
アルファベット26文字を全て使って文章を作る、英語の言葉遊びだ。
最も有名なパングラムとして知られるのが、こちらだ。
The quick brown fox jumps over the lazy dog.
(素早い茶色の狐が怠け者の犬を飛び越える)
「a」から「z」までのアルファベットを全て使ってできた文章だ。同じ文字は何度使っても良いので、「e」や「o」などが重複して使われている。一方で、全ての文字を一度しか使わないパングラムは、「完全パングラム」と言われている。例えば、こういうもの。
New job: fix Mr. Gluck’s hazy TV, PDQ!
(新しい仕事:グレッグ氏のぼんやりしたTVを修理せよ。大至急!)
英語は母音が5音しかないので、完全パングラムはかなり難易度が高い。
日本でも「あ」から「ん」までのひらがなを全て使って文章を作るパングラム遊びがある。最も有名な、日本語完全パングラムといえば、「いろは歌」だ。
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん(色は匂へど 散りぬるを 我が世誰そ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず)
かな47文字を全て一度ずつ使った完全パングラム。そのうえに、七五調のリズムでまとめている。さすが、平安時代の言葉遊びはレベルが高い。
ところが、この いろは歌に対して、「濁点入ってるからダメじゃね?」と噛みついたのがバカリズムだ。バカリズムには、濁点を使わない現代版いろは歌を考えてみた、というネタがある。
ラーメンズの小林賢太郎も、アナグラム(言葉を入れ替える遊び)のネタで、最終的にはこんな完全パングラムを披露している。
バカリズムやコバケンのような志向の芸人にとって、パングラムは「俺が面白いのを作ってやる」というチャレンジ意欲を掻き立てられる遊びなのだろう。
他にも、数多くの著名人が、完全パングラム作りにチャレンジしてきた。例えば、NHKの「おかあさんといっしょ」では昔、『はるなつあきふゆあいうえお』という完全パングラムの歌があった。
はる ねむさに めをこすり
『はるなつあきふゆあいうえお』作詞:小椋佳 作曲:小椋佳
なつ ひやけ そらへとせみ
あき まちの うたもかれて
ふゆ こいぬ かけてくまた わん
作詞作曲は小椋佳。濁音を使わず、子供にも分かる言葉と内容で完全パングラムを達成し、しかもそこに曲までつけているのだから、その才能たるや、すさまじい。
また、パングラム愛好家として有名なのが、推理小説家の竹本健治だ。現在もツイッターでしばしば自作のパングラムを発表している。例えばこちらは4月8日の「いろは歌の日」に詠んだパングラム。
「いろは歌」にならい、七五調でまとめているのは、さすがだ。
竹本健治は暗号ミステリー小説『涙香迷宮』に、いくつもの完全パングラムを収録している。日本唯一の「パングラム推理小説」だ。
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彼はまた、「現代いろは」を作るユニット「IRH48(いろはフォーティエイト)」も主催しており、ホームページでは会員たちによるさまざまな完全パングラムを紹介している。
子供と作るぞパングラム
パングラム作りで大事なのは、語彙力だ。息子が小学校に入学し、ぼちぼちボキャブラリーが増えてきたのを見計らって、一緒にパングラムに挑むことにした。娘のひらがなあそび用に作った「ふっかつのじゅもん五十音マグネット」があったので、これを使ってやってみた。
もちろん、大人でも頭を悩ます完全パングラムを子供が全て作るのは難しいので、途中まで息子が作ってギブアップしたら、そこから親が引き継いで完成を目指す形にした。また、濁点と半濁点は使用OKとした。
息子は、5文字くらいのフレーズをバラバラに作って、最後に組み合わせるという方法を思いついた。わりと一人でもいいところまでいくのだが・・・
文字を使いまわしつつも、どうしてもうまく使い切れない文字が余ってしまう。かなり難しい。
この方向であれこれとフレーズを組み替えて、紆余曲折の末に何とか完成した完全パングラムが、こちら。
まちにうんこあらわる ひとやいぬをふむ
よせ おしりろぼがきた
それゆけ はさめ
ねつのへで みなもすくえ町にウンコ現る。人や犬を踏む
「よせ!」 おしりロボが来た。
それ行け!挟め!
熱の屁で、皆も救え!
子供たちが大好きな「巨大ロボ特撮もの」と「うんこ」の世界観をパングラムにまとめることができた。
この勢いでもう1つできた。
うんちよ
そのふねにて さきへいけ
ゆめがみれぬ ひは おわりだ
とまるな
あすをこえろ
ほむら もやしつくせうんちよ
その船にて先へ行け。
夢が見れぬ日は終わりだ。
止まるな。
明日を超えろ。
焔、焼き尽くせ。
自立していよいよ旅立とうとしている子供に対する、父からのはなむけの言葉だ(ただし、うんこ親子である)。
日本語は「う」と「ん」が最も頻繁に使われる語なので、いかにこれを温存するかがパングラム作りの肝だと思うが、息子がいきなり「うんこ」で使い切ってしまうので、かなり苦労した。
パングラムは、パズルやクイズのように誰かが用意した正解を目指すのではなく、まだ誰も見つけていない答えを探すような遊びだ。できたときの達成感がすごい。また子供と一緒だと、なるべく簡単な言葉で文章を作る必要があるので難易度が高い分、面白い。つい時間を忘れてしまう。
子供用のひらがなのカードや積み木がある家庭は、これを使ってパングラムで是非一度遊んでみてほしい。
バカリズムの「いろは歌問題」のネタが収録されているライブはこちらから。